わかりやすい地質百科

地震予知の現状

人類は地震による被害を軽減するために、揺れに強い建物を造る努力を続け、現在では大地震に耐えられるような建物を造ることができるまでになりました。ところが近年、地震の発生が昔と比べて多くなったと言われるようになり、これに伴って地震による被害の報告もよく耳にするようになりました。また、ひとたび阪神・淡路大震災のようないわゆる大地震が発生すると、一瞬で多くの尊い人命と貴重な財産が失われてしまいます。このような理由から、地震予知の実現に対する人々の期待には大変高いものがあります。しかしながら、それは極めて困難な課題であり、結論から言うと残念ながら現在の技術レベルは実用的段階には程遠いと言わざるを得ない状況にあります。

人類は地震の発生時期を予測して被害を軽減しようと、数千年前から地震予知を試みてきました。ところが現在でも、一般には地震の発生を事前に正確に予知することは困難とされています。端的に言って「何月何日の何時に、どこでどれだけの規模の地震が発生する」といった範囲・形式での予知を、科学的な手段による根拠を提示して行うことは、少なくとも現時点では不可能です。

この地震予知がなかなか進展しない理由の一つとして、そもそも対象とする大地震の発生頻度が少ない上に、我々の経験蓄積速度が極めて遅いことが挙げられます。すなわち、多くの観察や実験から経験を蓄積し、その中から法則性を見出し、その法則に基づいて将来を予測するというのが科学の常道です。ところが、地震計による観測が開始されてからやっと100年、本格的な調査観測がなされるようになってからはまだ30年程度しか経っていません。これらの期間は大地震の1サイクルにも満たない時間であり、大地震の歪みが蓄積された数千年の時間に比べると30年は一瞬であると言えます。このように、大地震の発生前後に震源域の近傍でどのような現象が生じるのかについて、我々の知識はあまりに乏しいのが現状です。

しかしながら、それでも東海地震だけは何とか予知したいとの願望から、特別にぶっつけ本番の予知体制が執られています。現在、静岡県周辺では重点的に地震や地殻変動の観測が実施されており、これにより東海地震は世界で初めて偶然ではなく、狙って予知することができるのではないかと期待されています。

ところで、地震学者や行政が公式に認め取り組んでいるのはほとんどが地学的な地震予知です。また、一部の研究者は従来の地学的手法とは異なる観測方法を用いた地震予知を研究しています。これらの他に、地震前に広く見られると言われている種々の前兆現象を予知に用いる研究をする人もいますが、地震学者からはほとんど認められていないのが現状です。例えば、地震が発生する前に現れるとされる気象現象や生物の行動の変化などを前兆現象として捉え、地震を予知しようとする試みがあります。ただし、ほとんどが未だその妥当性やメカニズムに関して一般的に論ずることのできる段階にはありません。特に地震雲については、岩盤の破壊により電磁波が生じて雲を作るとされていますが、雲の形と地震発生との関係が全く不明で、また雲のほとんどが気象状況により発生のメカニズムが証明できるものであり、否定的見解が多数派を占めています。

現時点では地震予知の方法に決まった公式があるわけではなく、ある地域では有効な観測手法も他の地域では役に立たない場合もあります。このため、地震観測と地震変動観測を大きな2本柱とし、関連のありそうなデータはできる限り多く集めて総合的な判断を行うというのが、現在の地震予知の基本的な考え方となっています。

(東邦地下工機株式会社 山口営業所 田上(たうえ)貴祐)

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